不動産に関する税には、取得時の不動産取得税や登録免許税、保有時の固定資産税や都市計画税、そして譲渡時の所得税などがあり、個人の不動産の譲渡所得は、その所有期間によって、短期譲渡所得および長期譲渡所得に分けられます。

この所得に所得税、住民税が課税されることになります。

さらに、居住用財産においては、いくつかの課税の特例があります。

 

居住用財産の譲渡の特例の全体像

居住用財産を譲渡した場合の特例には、譲渡益が出た場合と、譲渡損失が出た場合の下記の5つがあります。

〈譲渡益〉

1.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除 (以下、3,000万円の特別控除)

2.居住用財産を譲渡 した場合の長期譲渡所得の課税の特例 (以下、軽減税率の特例)

3.特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例 (以下、特定の居住用財産の買換えの特例)

〈譲渡損失〉

 4.居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除

 5.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除いずれの特例も以下の要件を満たすことが要件の一部とされる。

・居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること

・配偶者や直系血族、生計を一にする親族等への譲渡でないこと

・譲渡の年、前年、前々年に居住用財産の譲渡の特例の適用を受けていないこと

 

それぞれの特例について検証する前に、まずは譲渡所得の原則について確認しておきましょう。

①土地、建物等を譲渡した場合の譲渡所得は、他の譲渡所得とは分離して課税される。

②譲渡所得は、その資産の所有期間によって、短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられる。

③具体的には、譲渡した日の属する年の 1月1日における所有期間が5年以下の場合は短期、5年を超える場合は長期となる。

短期譲渡所得は所得税30%、住民税9%、長期譲渡所得は所得税15%、住民税5%と、合計の税率をみると倍近い差がある。

 

(1)3、000万円の特別控除

居住用財産を譲渡した場合において、一定の要件を満たしたときは、その譲渡益から3,000万円を控除することができます。

その譲渡益が3,000万円以内の場合には所得税、住民税はかかりません。

3,000万円を控除しても譲渡益が残る場合には、残った譲渡益に対して、その所有期間に該当する税率で課税されます。

3,000万円の特別控除は、所有期間にかかわらず適用される点が他の特例と異なり所得制限もありません。

 

(2)軽減税率の特例

譲渡した年の1月1日 における所有期間が 10年を超える居住用財産 を譲渡した場合の長期譲渡所得について、3,000万円の特別控除後の譲渡益に対して、所得税10%、 住民税 4%の軽減税率が適用される。

なお、譲渡益が6,000万円以下の部分において適用され、 それを超える部分については、前述の長期譲渡所得の税率で課税されます。

 

(3)特定の居住用財産の買換えの特例

一定の要件のもと、譲渡した年の1月1日における所有期間が 10年を超える居住用財産を譲渡し、所定の期限までに新たに居住用財産を取得し、居住の用に供し、または供する見込みである場合は、特定の居住用財産の買換えの特例を適用できる (平成29年12月31日までの時限措置)。

譲渡による収入のうち、買換資産の購入に充てられた部分についての譲渡益への課税は買 換資産の譲渡時に繰り延べられます。

例えば、譲渡収入が5,000万円で、買換資産が5,000万円以上だった場合には、売却益が出ても課税は繰り延べられます。

一方、買換資産が4,000万円だった場合には、譲渡収入と買換資産の価額の差額である、譲渡収入1,000万円に対応する譲渡益に課税されます。

なお、買換資産の取得費は、譲渡資産の取得費を引き継ぐことになるが、取得時期は実際の取得時期となる点に注意が必要です。

適用要件は、譲渡資産には所有期間のほかに居住期間が10年以上、譲渡対価が1億円以下であることなどがあります。

買換資産には建物の床面積は50㎡以上、土地は500㎡以下などがあります。

なお、3,000万円の特別控除、軽減税率の特例とは併用できない点には注意したいとこです。

 

(4)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除

東京に家を購入したが、転勤で大阪に行くことになったため、東京の家を売却し、新たに大阪で家を購入した、しかし、譲渡損失が出てしまった。そんなときに利用したい特例です。

譲渡した年の1月1日における所有期間が5年を超える居住用財産を譲渡し、譲渡の年の前年 1月1日からその譲渡の年の翌年12月31日までに要件を満たす居住用財産を取得し、取得の年の翌年12月31日までに居住の用に供した場合または供する見込みである等の要件を満たした場合、その譲渡資産に係る譲渡損失は、譲渡した年の損益通算およびその年の翌年以降 3年間の各年の総所得金額等からの繰越控除が認められます(平成29年12月31日 までの時限措置)。

買換資産の適用要件には、居住の用に供する部分の床面積が50㎡以上であること、買換資産を取得した年の年末において償還期間10年以上の住宅借入金等の残高を有していることなどがあります。

また、繰越控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下でなければならないといった所得制限もあります。

 

(5)特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除

住宅ローンの返済が厳しくなり、 自宅を手放さなけ ればならなくなった人の救済措置としての役害を担っているのがこの特例であります。

譲渡した年の1月1日における所有期間が5年を超える居住用財産を譲渡しても、住宅ローンを返済しきれない場合、譲渡損失のうち、一定額をその年の損益通算およびその年の翌年以降3年間の各年の総所得金額等から繰越控除することが認められます(平成29年 12月 31日 までの時限措置)。

なお、この特例に買換えの要件はありません。損益通算および繰越控除が認められる金額は、住宅ローンの残高から譲渡対価を差し引いた金額と、譲渡損失の額のいずれか少ない金額が限度となります。

適用要件には、譲渡に係る契約日の前日に償還期間10年以上の住宅借入金等を有していること、繰越控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下でなければならないといった所得制限もあります。

 

住宅借入金特別控除との関係 

居住用財産を譲渡し、譲渡益が出る場合の特例は、 住宅借入金等特別控除との併用はできません。しかし、譲渡損失が出る場合の特例は一定の要件を満たすことにより、住宅借入金等特別控除と併用はできます。

住み替えのため売却したり、買い換えるときに知っておきたいのが、譲渡所得に係る所得税、住民税であり、 居住用財産の譲渡の特例です。

不動産の売買の取引金額は大きなものとなるため、支払う税額も私たちの家計に大きな影響を及ぼすことになります。