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健康保険について
健康保険は被保険者とその被扶養者の業務外における疾病、負傷、出産、死亡などの保険事故に対して保険給付を行う制度です。
保険者
健康保険事業を運営するために保険料を徴収したり保険給付を行ったりする運営主体のことを保険者と言います。
健康保険の保険者には、全国健康保険協会と健康保険組合の2種類があります。
被保険者
健康保険に加入し必要な給付を受けられる人のことを被保険者と言います。
適用事業所に勤務し以下の要件に該当する人は本人の意思に関係なく全て健康保険に加入することになっています。
①健康保険の被保険者となる要件
・雇用期間(見込み)が2ヶ月を超える場合
・1日、1週間の所定労働時間、1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上の場合
②次の条件をすべて満たす短時間労働者
・1週間の労働時間が20時間以上
・賃金月額88,000円以上
・勤務期間が1年以上
・学生でないもの
・被保険者数が501人以上の企業の従業員
被扶養者
健康保険では被保険者に扶養されている被扶養者も保険給付を受けることができます。
被扶養者の範囲は次のとおりです。
■被扶養者の範囲
①被保険者と生計維持関係が必要な人
・配偶者(内縁関係を含む)
・子、孫
・本人の兄弟姉妹
・本人の直系尊属
②被保険者との同居が条件となる人
・①以外の三親等内の親族
・被保険者の内縁の配偶者の父母及び子
・内縁の配偶者死亡後の内縁の配偶者の父母及び子
被扶養者の判定基準
被保険者の扶養家族に収入がある場合、被扶養者として認定されるためには次の収入要件があります。
■被扶養者の収入要件
①同居の場合
年収が130万円未満(60歳以上又は一定の障害者の場合は180万円未満)でかつ、被保険者の年収の2分の1未満であること
②別居の場合
年収が130万円未満(60歳以上又は一定の障害者の場合は180万円未満)でかつ、被保険者からの援助額(仕送り等)より収入が少ないこと
保険料
健康保険の保険料は、原則として事業者と被保険者が折半して負担します。
■全国健康保険協会管掌健康保険の場合
標準報酬月額・標準賞与額✕都道府県単位保険料率 |
■組合管掌健康保険の場合
標準報酬月額・標準賞与額✕(3%~13%の範囲内で健康保険組合が自主的に決定) |
標準報酬月額
標準報酬月額とは被保険者が受ける報酬の額をいくつかの区切りのよい等級に区分したものです。
この区分に基づいて毎月の保険料や給付額の算定が行われます。
標準報酬月額は第1級から第50級までの50等級に区分されていて主な決定・改定方法には、定時決定と随時改定があります。
定時決定
標準報酬月額は年1回報酬の実態に応じて見直されることになっています。
毎年7月1日現在の被保険者について4月から6月の3ヶ月間の報酬の平均額を算出し標準報酬月額算定基礎届を提出し決定されます。
決定された標準報酬月額は随時改定が行われない限りその年の9月1日から翌年8月31日まで適用されます。
※報酬の支払基礎日数が17日以上ある月に限ります。
随時改定
固定的賃金の変動があり、変動月以後3ヶ月間の報酬の平均額を算出し標準報酬月額に2等級以上の差が生じたとき標準報酬月額変更届を提出することにより改定されます。
※報酬の支払基礎日数が17日以上ある月に限ります。
標準賞与額
3ヶ月を超える期間の賞与から1,000円未満を切り捨てた額です。
標準賞与額に関する健康保険の保険料賦課の上限は年間573万円です。
給付内容について
給付の対象となる保険事故は次の通りです。
ただし、被扶養者には休業の場合に給付される傷病手当金と出産手当金は支給されません。
■給付内容
・療養の給付
・療養費
・高額療養費
・高額介護合算療養費
・傷病手当金(被保険者のみ)
・埋葬料
・出産育児一時金
・出産手当金(被保険者のみ)
療養の給付
被保険者の業務外の事由による疾病、負傷については保険医療機関または保険薬局等に保険証を提示することにより現物給付が行われます。
ただし、療養に利用した費用の一部は一部負担金として被保険者が保険医療機関・保険薬局に支払います。
■一部負担金の割合
年齢 | 一部負担金の割合 |
70歳以上75歳未満 | 2割 |
70歳以上75歳未満(現役並所得者) | 3割 |
小学校入学から70歳未満 | 3割 |
0歳から小学校入学前まで | 2割 |
療養費
旅行中に病気になったり不慮の事故で近くの病院に搬送された場合などで保険証を持っていない時は療養の給付を受けることができず医療費の全額を自己負担しなければばりません。
この場合、保険者が認めた場合には後で申請して保険者から療養費として払い戻しを受けることができます。
高額療養費
自己負担限度額を超えた部分が払い戻される高額療養費制度があります。
医療費の自己負担額は70歳未満と70歳以上では計算方法が異なります。
■70歳未満のポイント
・各月、同一の診療、同一の医療機関ごとに行われます。
・同一人が複数の医療機関にかかり、それぞれ21,000円以上の額は医科、歯科、入院、通院を合算可能です。
・同一世帯内で同じ月に、自己負担額が21,000円以上のものが2件以上あれば1世帯で合算した金額が対象となります。
・同一世帯で直前の1年間に既に3回以上高額療養費の支給を受けていてさらに4回以上高額療養費が支給される場合は4回目から自己負担限度額が軽減されます。
・領収日から2年以内なら請求可能です。
・限度額適用認定証を申請して医療機関に提示すれば高額療養費が現物給付されます。
・外来療養においても高額療養費が現物給付されます。
■70歳以上75歳未満のポイント
・病院、診療所、歯科の区別なく合算できます。
・各月ごとの受診について計算します。
・同一世帯内の同一月内の全ての自己負担額を合算することができます。
高額介護合算療養費
療養の給付に係る一部負担金の額及び介護保険の利用者負担額の年間合計額が著しく高額になる場合には負担の軽減を図る目的から高額介護合算療養費が支給されます。
毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間に支払った医療保険の自己負担額及び介護保険の自己負担額が対象となります。
■高額介護合算療養費のポイント
・医療保険、介護保険ともに食費、居住費、差額ベッド料などは合算の対象となりません。
・同一の医療保険制度に加入している世帯であれば、世帯の医療保険と介護保険の自己負担分を合算することができます。
・住民基本台帳の世帯と異なるため健康保険と国民健康保険等の異なる医療制度に加入している世帯は住民票上は同じ世帯であっても合算対象となりません。
傷病手当金
傷病手当金は被保険者が病気やケガで仕事を休み、会社から十分な報酬が受けられない場合に休業中の生活を保障するために支給されるものです。
■支給要件
・病気や怪我のための療養中の時
・療養のために仕事はつけなかった時
・原則として給料等をもらえない時
・続けて3日以上休んだ場合(4日目から支給されます)
■支給額
・傷病手当金として支給される額は休業1日につき支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均値を30で割った額の3分の2相当額です。
■支給期間
傷病手当金が支給される期間は支給されることとなった日から1年6カ月間です。
出産育児一時金
被保険者が妊娠4ヶ月以上の出産をした時は、出産育児一時金として1児ごとに404,000円が支給されます。
被扶養者が妊娠4ヶ月以上の出産をした場合には、被保険者に家族出産育児一時金として404,000円が支給されます。
多生児を出産した時は、胎児数分だけ支給されますが産科医療補償制度に加入する医療機関等において出産した時は、産科医療補償制度にかかる費用が上乗せされて420,000万円が支給されます。
出産手当金
出産のため仕事を休み会社から十分な報酬が受けられなかった時には、出産手当金が支給されます。
支給されるのは出産の日以前42日(双児以上の場合98日間)から出産の日後56日間までの間で仕事を休んだ日数分です。
出産の日が出産の予定日より遅れた場合はその遅れた期間も支給されます。
出産手当金の額は、休業1日につき支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均値を30で割った額の3分の2相当額です。
また、出産手当金と傷病手当金の両方の支給要件を満たし傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多い場合その差額が出産手当金に上乗せされて支給されます。
なお、会社から報酬を受けられる場合はその額を控除した額が出産手当金として支給されます。
埋葬料
被保険者が死亡した場合、一律5万円の埋葬料が支給されます。また、家族のいない被保険者が死亡した場合、実際に埋葬を行った人に埋葬料の額の範囲内で埋葬にかかった費用が支給されます。
被扶養者が死亡した場合、被保険者に対して5万円の家族埋葬料が支給されます。
任意継続被保険者とは
退職して被保険者の資格を失ったときは、一定の条件のもとに被保険者の資格を継続することができます。
この制度により加入した人を任意継続被保険者と言います。
要件
被保険者期間が継続して2カ月以上ある人が、被保険者でなくなった日から20日以内に任意継続被保険者になるための申請をすること。
保険料
任意継続被保険者の保険料は、次の1か2のうちどちらか低い方の標準報酬月額に保険料率を乗じて算出します。
会社の負担は無く、全額自己負担となります。
1、任意継続被保険者が被保険者の資格を喪失したときの標準報酬月額
2、各保険者における被保険者の標準報酬月額平均額(前年の10月31日基準)
給付
原則として、在職中の被保険者が受けられる保険給付と同様の給付を受けることができますが出産手当金と傷病手当金は支給されません。
ただし、資格喪失時に傷病手当金または出産手当金の支給を受けている場合には継続してその給付を受けることができます。
資格の喪失
任意継続被保険者は、次のいずれかに該当する場合資格を喪失します。
・会社に就職し健康保険の被保険者になったとき
・後期高齢者医療制度の被保険者などになったとき
・任意継続被保険者になってから2年を経過したとき
・保険料を納付期日までに納付しなかったとき
・死亡したとき